SHARE
director interview小川太一監督インタビュー <後編>

ーーここからは具体的な部分について伺えればと思います。

ーー「一本の映画」にしたいとおっしゃられていましたが、そのためにどういったことをされたのでしょうか?

そうですね。入れ込めなかったシーンの情報の補完のために新作カットを入れたり、分かれていたシーンをつなげて見たり、細かくは色々としているんですが、ひとつ大きな部分としては、時系列を入れ替えているところがあります。
久美子とあすかを掘り下げて描くと、具体的には関西大会以降のエピソードが中心になってきます。でも、その前の話数まででどうしても必要なシーンというのもあって。
そこを見せるために、TVシリーズでは関西大会前に合宿を行っているのですが、今回は関西大会の後に合宿に行く、という流れに変更しました。

ーーそれは、TVシリーズからご覧いただいた方にとってはとても驚かれるポイントですね。

そう思います。ただ、やはり大事なのは、ひとつの作品としての見やすさとシーンや流れの必然性なんです。そういう意味で、今回、合宿の描写はどうしても入れたかった。もちろん、練習風景を入れたいというのもありましたが……、一番肝心な、あすかがひとりで吹くあの演奏を久美子が初めて聞くシーン。ここははずせなかったんです。

interview05

そんな大胆なことをするのは凄く悩みましたが、関西大会の後に合宿を入れる流れがこの映画単体で見たときにしっくりくると思いましたし、なにより、ここは時系列を入れ替えてでも見せたい、見せるべきシーンだと思いました。それが理由としては一番だと思います。

ーーまさに「一本の映画」をつくるための覚悟ですね。

はい。こういった時系列の入れ替えは分かりやすい違いなので、TVシリーズをご覧いただいていた方々はすぐに気づかれると思うんです。そういう不安はもちろんありました。
けれども、むしろ今までのシリーズをご覧になってきた方にこそ、新鮮な気持ちで見ていただきたいと思っています。「ここがカットされている」「このシーンの意味が変わっている」というようなこともあると思いますが、そこはそれとして楽しんでいただきつつ、見たかったと思うお気に入りのシーンが入っていなかったとしたら、そのときはTVシリーズを見返して、それからまた劇場に来て、またTVシリーズを…というように何度も違いを楽しんでいただきたい(笑)。今回はいっそTVシリーズとは違った発見をしていただきたいですし、まっさらな気持ちで「一本の映画」を楽しんでいただきたいですね。
シリーズを知らない方には、この映画からこれまでのシリーズに興味をもっていただけるようなきっかけになれば嬉しいです。

ーー “TVシリーズと違う“ということは悪いことばかりではない、ということでしょうか。

というより、それこそが”再構築“の面白さではないでしょうか。たとえば、いくら合宿を入れたいといっても、時系列を入れ替えずにすむ方法だってあるとは思いますし、もちろんその方法も考えました。でも、あすかと久美子の話に集中しようとしたときに、それは本当に「映画として良い流れ」なのだろうか、とも感じたんです。
それに、関西大会前は、やはり、みぞれと希美のエピソードが大きな基軸となっています。TVシリーズは、このエピソードをやるためにシーンが構築されているので、そのまま合宿のシーンを入れ込むのは不自然に思えました。その場合、その他の大きな部分を変えないと1本のお話として繋げられないと思ったんです。
ならば、「久美子とあすか」を軸にしたときに一番見やすい形は何だろう、と考えて至ったのが、時系列の入れ替えでした。
同時に、あえて、みぞれと希美の関係を描くことも避けました。中途半端には描きたくない、それならば、この二人は今回は吹奏楽部の一部員として描ききろうと覚悟して構成しています。
個人的にも、TVシリーズのみぞれと希美のクライマックスは僕が絵コンテ・演出を担当させていただいたこともあり、尚更ないがしろにしたくなかったんです。あの二人のエピソードは、TV1~4話の積み重ね・クライマックスがあってこそだし、「久美子とあすか」に絞ったエピソードの中では描き切れない。
だからこそ、「二期の総集編」ではなく、「新しい映画」としてご覧いただければ幸いです!

ーー今回、新作カットもありますが、そこに込めた想いはどのようなものでしょうか。

今回、あすかの描写を少し新作カットで補完しました。原作小説にある幼少期のシーンなのですが、原作を読んだときから大事なシーンだと思っていました。
この部分はあすかの前提となる記憶であり、あすかのいじらしさのひとつでもあります。あすかの本当の想いは、あのときのままなんですよ。だからこそ、その後の「全国に行きたい」という想いに強く繋がっていきます。
interview06 「全国に行きたい」という本当の気持ちと、それ以降のあすかの振る舞いに矛盾が生じていて……。いろいろな葛藤が渦巻いていると思いますが、あすかは柔らかい部分、弱い部分をひた隠しにして強い自分を演出している、そしてそれを演出しきれてしまう……。とても優秀で頭の良い子が、理解したうえで出してしまう結論……。あすかのことを考えれば考えるほど言葉を失っていきます。語りきれませんね。

ーー吹奏楽、吹奏楽部というのもこのシリーズの重要な部分だと思いますが、どのような魅力を持っていると思いましたか?

「熱い」というのが一番の魅力だと思いました。
人間の欲求は様々なものに拡散していきますが、吹奏楽というひとつのものに打ち込むことができるエネルギーの凄さというか、スポーツとは別の静かな熱さと言いますか……。
もう、ひとことで言うと「青春」です! いろいろな言葉が出てきますが、考えて……考えて……、結局、「青春」という言葉にすべてが集約されています!なにかというとすぐ「青春」という言葉を使ってしまいがちなんですが、これはなんとなく使っているわけじゃないんです。その言葉にいろんなものがつまっているんです!(笑)
子どもから大人になる間のこの多感な時期ならではの、純粋な心を失っていないと言いますか……ある瞬間になんだかすごく素直になってしまうこと、ありましたよね。
そういうことを思い出しながら制作しています。

ーーズバリ、今作品のこだわりポイントはどこでしょうか。

先程お話しした「あすかのいじらしさ」。あとは、演奏シーンですね。映画館という特別な、映像と音を楽しむためだけの空間で聴く演奏。これだけでも価値があると思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただければ嬉しいです。

ーー今回、演奏シーンも追加のカットがありますよね。

1期劇場版を観させていただいたとき、麗奈がトランペットを少し吹くだけで、ものすごく鳥肌が立ったんです。これだけでもう、劇場版で演奏シーンをする意味があるなと思いました。音の力というか、人類ってそりゃあ音楽に魅了されるよなって(笑)。「乾いた心に音楽を」という風に言われますが、音楽にはそれだけの力があるんだと思いました。
そのときの感動で、音楽はこの作品を作るうえで絶対外せないポイントだと確信していたので、今回も演奏シーンには力を入れています。
interview07 今作は久美子とあすかの気持ちに寄り添った映画を目指していますが、やはり、映画のクライマックス・みどころは演奏シーンです。演奏シーンにテンションがあがってこその「響け!ユーフォニアム」です! 最高の音楽体験ができるといいなあと、僕自身も楽しみにしています。

ーー演奏シーンの絵コンテも小川さんが担当されたのでしょうか。

一部のシーンは、山田さんが絵コンテを切ってくださいました。
僕が絵コンテを切ったところは、TVシリーズで描かれた演奏シーンからさらに新規シーンを足したり、一部変更を加えたりしています。
TVのときとはまた違う意味で、劇場版で新しい気持ちで観ていただけるように構成しました。

ーー小川さんは音楽にこだわりがあるタイプですか?

音楽は詳しくはありませんが、音楽に限らず気になったらこだわるタイプです。
違和感を覚えて「なんか違うんだなぁ~」と言うだけではなく、時間がかかりますが、その違和感の原因を究明して、そして見つかったものを自分のものにしていければと思って取り組んでいます。もちろん、思考がぐるぐるとドハマりするときもあるんですけどね(笑)。

ーーお話しされている印象から、小川さんは理論派だと思っていました。

あ、それは僕も思います(笑)。ことあるごとに説明が理系なんですよね。実際に理系ではありますが、なんだか理屈っぽく話してしまいます。それが自分の強みでもあると思っていますが、枷になることもあるので、柔らかくするということをもっと覚えられたら自分は更に成長することが出来るのかなと思うこともありますね。山田さん、石原さんはそのあたりの塩梅がお上手なんです。二人とも作家性をしっかり持っていらっしゃっていて、僕も自分なりの作家性を見つけていければと思っています。
今回はそれを考えるきっかけにもなりました。これからも精進していきたいなと思う限りです。

ーーそれでは最後に、映画の公開を楽しみにしてくださっているファンの皆様へ、メッセージをお願い致します。

『響け!ユーフォニアム』シリーズを初めてご覧いただく皆様にも、ずっとファンでいてくださっている皆様にも、見ごたえのある、楽しんでいただける作品になっていると思いますので、音とストーリーを堪能しに劇場まで足を運んでいただければ幸いです。
interview08

ーー小川監督の作品にかける熱い思いを伺うことができました。

『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』は大ヒット上映中!